太陽発電設備の故障原因を探る

万一必要が生じたとき故障調査へ備える方法

現在稼働中の太陽光発電システムにおいて、例え小さな故障であっても、それが広範かつ深刻な結果をもたらす可能性があります。しかし、故障原因を理解できれば、再発防止措置を講じることができます。とは言うものの、太陽光発電業界の急拡大、新技術の導入、時に過酷な環境条件といった要因により、故障原因を特定することは大きな挑戦となっています。

太陽電池モジュールをはじめ、架台取付部品、トラッカー、インバータ、パワーケーブル、変電設備、そして導入が進む蓄電池を含め、多種多様な部材によって太陽光発電所は構成されます。これらの部材は、日射、強風、降雨、降雹, 積雪、着氷、湿気といった環境的要因や、摩擦などの機械的要因に晒されています。いずれの要因も潜在的に金属疲労、腐食、ヒビや割れ等の原因と考えられ、結果としてシステムの整合性を毀損する因子となる虞れがあります。

故障とは、規定機能を失った結果、コンポーネントやシステムが正常に稼働できない状態と定義することができます。小さな部品の故障が深刻な結果に至ることも十分にあり得ます。

資本コストが高く運用コストは比較的低いとされる通常の商用規模の太陽光発電設備の場合、初期投資および経年劣化によるパフォーマンスの低下を修復するための追加投資の妥当性の根拠として、一般的には30年以上の長期運用寿命が要求されます。したがって、太陽光発電システムや太陽光発電所の故障原因を理解することは、再生可能な太陽光エネルギーを手の届く価格で安定供給し、世界的なエネルギーシステムにおける脱炭素化に貢献する上で不可欠な課題となっています。故障問題の解決は重要度の高い課題として認識されています。 DNV による『エネルギー変革の展望』における予測では、太陽光発電の設置容量について 2019 年に対し 2050 年は 20 倍に拡大すると見込んでいます。

したがって、故障が発生した場合、その徹底的調査と分析は、原因を正確に突き止め、更なる事故や故障の発生を予防し、商用規模の太陽光発電事業の運用における技術的リスクおよび経済的リスクの低減に役立ちます。学習成果をもとに、より信頼性の高い部材およびシステムを選択することができれば、検査、保守、修理や交換に要するコストと時間が削減され、プロジェクトにおける将来の発電性能の低下を未然に回避することが可能になります。

したがって、故障が発生した場合、その徹底的調査と分析は、原因を正確に突き止め、更なる事故や故障の発生を予防し、商用規模の太陽光発電事業の運用における技術的リスクおよび経済的リスクの低減に役立ちます。学習成果をもとに、より信頼性の高い部材およびシステムを選択することができれば、検査、保守、修理や交換に要するコストと時間が削減され、プロジェクトにおける将来の発電性能の低下を未然に回避することが可能になります。

こうした知見を商用規模の太陽光発電事業の設計および建設の当初から適用すると、潜在的利益は最大化されます。オペレータは、全ステークホルダーが関わる本格的な根本原因分析 (RCA) であろうと狙いを限定した簡易原因分析 (ACA) であろうと、調査を実施できる態勢を整えていれば、学習と改善という好循環を推進することができます。

通常の 100 MWac クラスの太陽光発電プロジェクトの構成例: 太陽電池モジュール約 300,000 台; 駆動用モータ、ベアリングおよびダンパーを搭載したトラッカー約 3,500 台; 基礎杭約  45,000 本; ケーブル敷設距離約 100 km; インバータ約 40 台。

根本原因とは何か?

故障は、物理的 (または技術的) 、人的、組織的、環境的 (または外的) という 4 タイプに大別され、それぞれが相互依存している場合もあれば、偶然同時に起こる場合もあります。したがって、太陽光発電事業のような複雑で相互依存的なシステムにおける故障原因の解明は、多くの専門家の見解を要する重要課題と言えます。

しかしながら、故障分析の多くは、試験所での実験分析や工学解析から導かれたもので、設計欠陥、材料不良、製造および設置の瑕疵、誤った寿命設定という 4 つの物理的根本原因の基本分類のいずれかに該当すると判定された時点で終了します。例えば、腐食や変色、セルクラック、層剥離は太陽電池モジュールコンポーネントの信頼性を脅かす潜在的な故障リスクです。

人的な根本原因が故障につながったことが明白な場合でも、ヒューマンエラーを調査することにより、隠れた組織的な原因または手続き上の原因を特定することが可能です。例えば、太陽電池モジュールやそのコンポーネントのダメージは、輸送中、ハンドリング時もしくはトラッカー設置時の破損の可能性が考えられます。

環境的な要因が原因の場合、オペレータには制御できない故障事象もあります。例えば、ソーラートラッカーは、動的増幅によってもたらされる過度な風荷重の影響を受けることが考えられます。

根本原因分析 (RCA) のメリットとは?

包括的な RCA を実施するための十分な時間と投資によって、分析結果に基づく発電所の残余寿命に対する効果的な緩和策の設計と実装、またより目的に適合した部材の選択や開発が可能になるでしょう。これにより、保守頻度を低減させる部材への変更や部材の新規開発、また梱包やハンドリング手順の改善を可能とするでしょう。さらに、品質保証と品質管理のプロトコルおよび試験体制の整備についても改善が可能となるでしょう。

したがって、設計から機材の選定、調達、輸送、建設そして試運転まで、ライフサイクル全体を通しRCA のメリットを実現することが可能です。また、運用管理と保守· 保全 (O&M) では、オペレータが稼働実績の低下について理解し、設備投資の追加についてその必要性と妥当性を判断する必要がある場合にも有用です。

よくある故障の根本原因を認識することは太陽光発電所の設計および設置に関する推奨案の策定とその改善に役立ちます。稼働中の商用規模の太陽光発電所から発電出力と故障データを集計しコンピュータモデルを検証することは極めて重要です。業界ではデジタル化とネットワーク接続性が益々推進され、安全かつ費用効率が良く収益性の高いオペレーションに向けたコンピュータモデルの活用が進むでしょう。

「根本原因分析」の適用手法として、問題が生じたときに当該事業および広範な太陽光発電業界の双方に知見とサポートを提供するため、例えば、ソーラートラッカーの風荷重に対する屈曲挙動について DNV では先進的な分析ツールによるトラッカーのシミュレーションを行っています。一例として、実践的な構造シミュレーションに必要となる非線形有限要素 (FE) モデルの開発が挙げられます。適切なモデルでの再現により、製品固有の特性を考慮した構造的な挙動についてよりよく理解することを可能としています。

RCA の内容は?

一般的に RCA では詳細に記述された系統的プロセスを用いて故障事象を誘発した原因が特定されます。当社の経験では、DNV のような第三者機関の専門家により調整された RCA チームの一員に製品製造元メーカを含めることが理に適ったプロセスと考えます。

顧客またはオペレータにより保全された証拠を基にデータの収集と分析を始め、直接原因、基本原因および根本原因の特定へと至る構造化された故障調査プロセスが実施されます。このプロセスの目的は類似の故障 (および故障事象) の再発を未然に防ぐ手段の特定にあります。図 1 に RCA の代表的な 5 ステップアプローチを示します。故障事象および顧客の目的に応じ調整された記載になっています。図 1 に示される通り、新しい証拠が見つかる度に幾つかのステップを繰り返す必要があります。

理に適ったRCA では、 ACA とは異なり、最も可能性の高い根本原因を特定するため故障仮説の検証確認試験を行います。この検認試験は時間を要します。また製品製造元メーカのサポートが必要な場合がほとんどです。 RCA のメリットは根本原因を特定するための最も包括的且つ実行可能なアプローチを提供することにあります。

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図 1: DNVによる代表的な RCA 故障調査プロセス (IEC 62740:2015 Root Cause Analysis を基に記述)

しかしながら、関与するステークホルダーの数、契約上の複雑性、そして短期間での復旧を要請する経済的必要性などが相まって、実際に本格的な「根本原因分析」を実行に移すには往々にして状況が複雑化してしまいます。

そのため、より現実に即した現実的アプローチがしばしば求められます。

簡易原因分析が故障調査への現実的なアプローチ

本格的な根本原因分析を実施 · 実行することは、多くの場合、複雑な作業となります。 RCA プロセスは顧客がオプションとして選択できる多様な故障調査サービスのひとつとして位置付けられます。その他、簡易原因分析 (ACA) や第三者機関による調査、試験所での分析といったより限定された範囲のオプションが利用可能です。

RCA と ACA の主な違いは、 ACA の目的は入手可能な情報、合理的手段、アナリストの経験および専門家の工学的判断に基づいた一般的に受け入れられる合理的且つ実現可能な範囲においてその問題がなぜ起こったのかを立証することです。

一方、本格的な RCA では、通常、サイト固有または機器固有の設計、製造およびオペレーションに関わる専門家が関与します。また、より深く、より詳細な、細部にわたる調査が必要となります。 RCA では製品製造元メーカやサードパーティの協力が必要となりますが、不本意ながら、これらの関係者はそれほど協力的ではない傾向にあります。協力が得られにくいことは現実問題として RCA の達成度を、ひいては ACA を超え得る成果を制限してしまいます。

ACA では、対象分野の専門家が潜在的な原因因子を検討し故障原因の仮説が立案されます。これに基づき、通常、同定された故障メカニズムの特定原因に対応できるよう顧客や事業者へ推奨是正措置が提示されます。運用中の発電設備では、是正措置の導入に際し、 O&M 請負業者、場合によっては製品製造元メーカとの更なる協議が必要になります。

ACA のメリットは、本格的な RCA と比較しコストと時間を削減できる点にあります。しかし、他のステークホルダーの関与が少ないため、 ACA では故障メカニズムの根本原因に対処できない可能性が残ります。しかし、太陽光発電事業者にとっては、根本的な原因を詳細に特定することは、必要な緩和策を実施するために十分な理解を得ることほど重要ではないかもしれません。 換言すれば、「簡易原因分析」は、 EPC 契約や O&M 契約または製品保証に基づく契約上の救済措置を損なうことなく、事業者により良い価値をもたらす現実的な故障調査アプローチと言えましょう。

公平性と専門性の意義

根本原因分析と簡易原因分析は、商用規模の太陽光発電業界において、故障調査を通じ事業者、オペレータおよび投資家をサポートする DNV の多様なサービスの一環です。また、当社の専門家チームは、他の再生可能エネルギープロジェクトや技術分野での国際的な活動実績および長年の経験を結集し活用します。さらに、関連するサービスとして、サイト調査、プラント検査と工場監査、フィールドテストおよび測定サービス、包括的データ解析、試験所での分析や検査、 CAD/CAE シミュレーション等を提供しています。

故障調査 · 分析を適切に実行するためには、広範な故障分析ツールに精通し定評のある経験豊かな研究所と協働している複数の分野の専門家による公平な視点が必要であることを理解し、当社はこのような事故調査に必要な見識とその能力の蓄積に投資しています。

本格的な RCA またはよりターゲットを限定した ACAのいずれのアプローチを採用する場合にも専門家が全面的に公平であること、そして公平であると見なされることが重要です。このような独立性は往々にして故障の本当の根本原因を見つける鍵となるため、私たちはあらゆる故障およびインシデントに関する情報の機密保持を徹底しています。これにより、顧客の皆さまにはご自身の情報が安全に取り扱われていることをご安心いただけます。

独立性と機密性は、独自のモデルおよび設計コードについて業界全体でノウハウを共有する際の制約を克服する一助となります。また、他方当事者がその担保がなければ決して開示しないであろう重要情報を安心して提供できる信頼関係の保証となります。

万が一に備える

商用規模の太陽光発電に参画する投資家にとってライフサイクルコストの重要性が高まる中、機器の選考、設計および建設段階において、数十年間にわたり最適かつ収益性を維持して機能するソリューションを選択することが不可欠です。

しかしながら、故障が生じたとき、事業者主体の故障調査を実施できる適切な契約条項、発電出力低下リスクおよび修復コストを適切にカバーする保証を用意していることが肝要です。こうした契約的側面は契約交渉段階において見落とされがちです。

万一必要が生じたとき故障調査へ備える方法:

  • 製品および施工文書の閲覧を確保する。

機器および発電所の詳細図面および設計図書を閲覧できますか?

設置および試運転の記録がありますか?

  • 関連する EPC および運用と O&M に関する契約条項を規定する。

独立した第三者機関による分析およびレビューは可能です?

必要なサポートを提供するようオペレータに指示できますか?

  • 自社の SCADA データへアクセスする。

すべてのSCADAデータにアクセスできますか?

どのようなデータを収集していますか?

それはオンラインであり、機能していますか?

  • 適切な製品保証を受ける。

保証期間終了時に包括的検査を実施していますか?