EU、炭素国境調整メカニズム (CBAM) を強化 — 新たな法整備について

CBAM最新動向とオムニバス草案がもたらす企業への影響を徹底解説

欧州連合(EU)は、炭素国境調整メカニズム(CBAM)をさらに強化するため、3つの重要な法文書を発表しました。CBAMは、EUの脱炭素戦略の中核を成す施策であり、持続可能なビジネス慣行の促進に貢献しています。今回発表された文書は、「オムニバス・パッケージ」、「CBAM認定申告者に関する条件と手続き」、「鉄鋼・金属産業アクションプラン」の3つです。

 

オムニバス・パッケージ:CBAM対応の簡素化に向けて

2025年2月26日に発表されたオムニバス・パッケージ案は、CBAMを含むEUのサステナビリティ関連法規をより効果的かつ実務的なものとすることを目的としています。主な改正ポイントは以下のとおりです。

 

適用対象の縮小と簡素化

輸入量に関する適用基準を引き上げることで、もともと想定されていたEU輸入業者の約90%がCBAM義務から除外される見込みです。一方で、対象外となる輸入量を除いても、約99%の組み込み排出量(embedded emissions)は引き続きカバーされます。

(新たな閾値は、輸入業者ごと、輸入品目ごとに、年間50トンの正味重量とされる予定です。)

 

要件の施行延期

CBAM制度の本格施行開始(デフィニティブ期間開始日)に変更はありませんが、一部義務の履行期限が3か月延長され、企業はCBAM証書の購入、申告書および検証報告書の提出、証書の償却に対してより多くの準備期間が与えられます。

 

他のサステナビリティ指令との整合性向上

CBAMは、コーポレート・サステナビリティ報告指令(CSRD)や企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)と整合性を持たせる方向で調整されます。これにより、EUグリーンディール目標の達成に向けた一貫した規制体系が構築されます。

 

主な改正点一覧(抜粋)

項目

旧制度

オムニバス改正案

企業への影響

輸入者のデミニマス基準

1配送あたり150ユーロ未満は免除

年間50トン未満の輸入で免除

90%の輸入者が免除対象に、99%の排出量は捕捉対象

排出量検証

全排出量に対し第三者検証必須

実排出量のみ検証要、デフォルト値使用時は不要

柔軟性向上、ただしデフォルト値利用時は税負担増リスクあり

CBAM本格施行日

2027年5月31日

2027年8月31日に延長

実データ収集と検証の準備期間拡大

CBAM証書管理

年間排出量の80%確保義務

50%確保に緩和、初回期限は2027年3月31日

柔軟な証書運用が可能に

炭素価格クレジット

原産国で支払った炭素価格のみ控除可

第三国で支払った炭素価格も控除可

EU外の炭素価格考慮が容易に(デフォルト価格設定あり)

CBAM認定申請手続き

NCA(国家主管庁)による協議必須

協議は任意に変更

手続き簡素化、迅速化

 

CBAM認定申告者に関する条件と手続き:輸入の「認可」を取得するために

欧州委員会は2025年3月18日、認定CBAM申告者の地位に関する条件および手続きを定めた実施規則を採択しました。主な内容は以下の通りです。

認定資格

認定CBAM申告者となるためには、以下の条件を満たす必要があります。

  • 関税および税務に関する法令の遵守実績
  • 財務的な安定性
  • CBAM義務を適切に履行できる能力

これにより、信頼できる事業者のみがCBAM対象品目をEUへ輸入することができるようになります。

 

申請手続き

申請プロセスでは、所轄の国家主管当局(NCA)に対して詳細な情報を提出する必要があります。
提出内容には、過去のコンプライアンス履歴や財務状況に関する情報が含まれ、当局による厳格な審査を受けます。この徹底した評価を通じて、CBAM制度の健全性が維持されます。

 

不遵守時の措置

認定を取得できなかった輸入業者や、CBAMに基づく報告義務を履行しなかった事業者は、認定取り消しの対象となる可能性があります。この厳格な運用により、EU域内に輸入される全てのCBAM対象品目が、既定の炭素排出基準に準拠することが確保されます。
なお、この認可を取得しない場合、2026年1月1日以降、CBAM対象品目のEU輸入は禁じられます。

 

新たな実施規則における主要要素

セクション

内容

申請手続き

  • 各EU加盟国のCBAMレジストリを通じて電子申請を実施
  • 申請には、会社情報、EORI番号(欧州連合輸入者登録番号)、推定輸入量、財務・業務遂行能力に関する証明資料の提出が必要

審査および追加情報要求(Review & Additional Info)

  • 提出後、通常120日以内に審査(2025年6月15日以前の早期申請については180日以内)
  • 追加情報の要求があった場合、審査期間は最大30日間延長可能

コンプライアンス審査(Compliance Checks)

  • 申請者は、財務的な安定性、重大な法令違反歴がないこと、十分な業務遂行能力を証明する必要あり
  • 新規申請者やリスクの高い事業者には保証金の提出を求められる場合あり

認定および登録 (Decision & Authorisation)

  • 承認された申請者には、CBAMアカウント番号が付与され、CBAMレジストリに登録
  • 却下された場合、異議申立手続きが可能

継続的遵守 (Ongoing Compliance)

  • 認定後もコンプライアンス維持が求められ、国家主管当局による定期的な再評価を受ける場合あり
  • 不遵守の場合は認定が取り消される可能性あり

タイムライン (Timeline)

  • CBAM認可申請受付開始日:2025年3月28日
  • 認可取得必須日:2026年1月1日以降、認可がない場合の輸入は禁止

 

 

鉄鋼・金属産業アクションプラン:産業競争力と持続可能性の強化に向けて

2025年3月19日、欧州委員会は「鉄鋼・金属産業行動計画(Steel and Metals Action Plan)」を発表しました。
この行動計画は、欧州の鉄鋼および金属産業の競争力および持続可能性の向上を目的としたものです。
CBAMは、同行動計画において重要な役割を果たしています。

 

カーボンリーケージ防止

このプランでは、CBAMを活用してカーボンリーケージ(排出量の域外逃避)を防止する重要性が強調されています。
具体的には、輸入金属製品に対して、製造過程における実際の炭素排出量を正確に反映させることが求められます。
これにより、非EU圏の産業が、CO2高排出なエネルギー源を使用しながら、見かけ上「低炭素製品」としてグリーンウォッシュすることを防ぐことを目的としています。

さらに、今年第2四半期中に、EU委員会から「CBAM対象品目を第三国へ輸出する際に発生し得るカーボンリーケージ問題への対応方針」が発表される予定です。
加えて、2025年末までに、特定の鉄鋼およびアルミニウム系の川下製品に対してCBAMの適用範囲を拡大し、さらに規制を意図的に回避しようとする行為を防ぐ措置(回避防止措置)を導入するための初回法案が提出される予定です。

 

脱炭素化の支援

本アクションプランには、鉄鋼・金属産業の脱炭素化を支援するための施策も含まれています。
具体的には、再生可能エネルギーや低炭素水素の利用促進などが挙げられており、CBAMはこれらの取り組みを補完するものと位置付けられています。
これにより、クリーンな生産方法への転換が促進され、炭素集約型の輸入品への依存度が低減されることが期待されています。

 

欧州域外の生産者への影響

強化されたCBAM規制により、欧州域外の生産者にとっても大きな影響が生じる見込みです。
対象となる生産者は、EUの炭素排出基準を満たすことが求められ、これにより追加コストを回避することができます。
このためには、よりクリーンな生産技術への投資や、排出量データの正確な報告が不可欠です。

もしこれらの要件に対応できない場合、関税の上昇やEU市場での競争力低下といったリスクに直面することになります。
また、非EU生産者は、欧州委員会が公表するデフォルト炭素価格の値に関する情報も把握し、自社の報告プロセスに適切に反映することが求められます。

一方で、CBAMは困難をもたらすだけでなく、各企業にとって環境負荷低減や技術革新の機会にもなり得ます。
サステナブルな生産体制への転換を通じ、グローバル市場における新たな競争力を獲得するチャンスと捉えることができるでしょう。


今後もDNVは、生命、財産、環境を守るという私たちのパーパスに基づき、お客様のカーボンニュートラル実現に向けたお取り組みと連携し、サステナブルな社会の実現に貢献する役割を果たしてまいります。

 

執筆者: 

Leclercq Jonathan

Senior Manager Supply Chain Transparency, SCPA, DNV

 

Tanabe Koichiro (田邊 康一郎)

サステナビリティサービス統括部部長, DNV Business Assurance Japan

 

 

 


 

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